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    湯島天神  


         投稿者:沼南ボーイ氏  投稿日: 2月 8日   『湯島の白梅』




泉鏡花の「婦系図」の主題歌。
佐伯孝夫作詞、清水保雄作曲、谷真西美歌 「湯島の白梅」
昭和17年。

1 湯島通れば 思い出す
  お蔦主税の 心意気
  知るや白梅 玉垣に
  残る二人の 影法師
2 忘れられよか 筒井筒
  岸の柳の 縁結び
  堅い契りを 義理ゆええに
  水に流すも江戸育ち
3 青い瓦斯灯 境内を
  出れば本郷  切り通し
  あかぬ別れの 中空に
  鐘は墨絵の 上野山

この歌は、中学時代にふとしたことから知ることになり湯島とはどんなところだろうと想像してました。
昭和37年高卒後上京した私は御茶ノ水上野近辺を好く歩き回り、「ヒトナミ」といわれた「一浪」の鬱屈した青春を過ごしました。
御茶ノ水駅から、聖橋を渡り、医科歯科大を右手に見て湯島の聖堂の高い塀を巡り神田明神を抜けて、湯島天神まで歩く。
天神下から池之端、不忍池の横を上野まで歩く。2km程度でしょうか。当時はなんとも思わなかったけど、
現状散歩するとなると、千代田線湯島を起点にするでしょう。

この「湯島の白梅」の歌詞について 蛇足ながら、書かせてください。

2番の「筒井筒」は伊勢物語に由来してます。物語では田舎で仲良し同士の子供がいて大人になり、
おたがいに 顔合わせるのが恥ずかしくなっていた。あるとき
「筒井筒 井筒に かけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに」
と幼馴染みの男が歌を送ると成人した女性の方は、
「くらべこし 振り分け髪も 肩過ぎぬ 君ならずして たれかあぐべき」
と返し、二人はめでたく添い遂げる。
樋口一葉の「たけくらべ」という信如と美登利の物語の題名もこれを敷衍してます。

幼馴染み同士の初恋というのは人類永遠のテーマですが、「月に叢雲、花に風」のたとえのように順風満帆とはいかぬようです。
この伊勢物語の二人は、手放しのめでたしめでたしではないのですが丈くらべして遊んだ相手とは添いとげるようです。
お蔦主税と信如と美登利はご存知のように別れてしまう、悲しい運命でした。

3番の「鐘は墨絵の上野山」 上野寛永寺の鐘ですが、これと浅草寺の鐘を詠んだ有名な芭蕉の句に
『花の雲 鐘は上野か浅草か』というのがあります。

また1番の「影法師」というのも道行を表現するときの定番のようで、「明治一代女」の歌詞に
「意地も人情も 浮世には勝てぬ みんなはかない 水の泡
泣いちゃならぬと 言いつつ泣いて 月に崩れた 影法師」
とあります。

18の青春を彷徨した湯島天神の境内、その廿幾星霜後 次女の受験祈願のため訪れたことがあります。
昔余り目だたなかった合格祈願の絵馬が夥しくあふれていました。
本郷切り通しへ抜ける坂道には、ふさわしくない建造物が密集していたのは興ざめでした。
今回モンニョさんの文章に接しまた訪れたくなりましたモンニョさん、時機を得た話題ありがとう。