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                California as I saw  

                                      投稿者:Steve Toda  投稿日:2016年10月10日(月)


  
 カリフォルニア見たまま(10)

 銀行員として働いて14年ほどが経った頃、ずっとこのままでいいのかなという疑問が
湧いてきました。  それは、第一には銀行員は座って客が入ってきたら相手をし、デスクに
座って貸付に必要な書類を作ってローンを出すのが仕事と思っていたのが実際には
外へ出て行ってビジネスを取ってくるセールスもしなければならないことが分かった為。 
それは自分の性格からして向いていないと思ったのです。 もう一つの直接的理由は
最後に勤務した支店の支店長の仕事の仕方が余りにひどかったからです。 そして、
そのような人を平気で支店長にしておく銀行そのものに失望して、別の会社に移ることに
しました。
 
 そして、その別の会社というのが銀行の顧客で日本食品の輸入・卸の会社でその
社長が大学の先輩だったのです。 会社の名前は JFC International といい、
キッコーマンの子会社です。 丁度、Export Manager を捜していてそのポストにつきました。

 この会社は元々タクワン貿易と呼ばれ、アメリカに住んでいる日本人、日系人の為に
味噌、醤油、タクワン等の日本食を輸入して全米に卸しており、最初はアメリカ生まれの
日系人によって始められたものをキッコーマンが買収したものです。

 日本食の輸入はここ40年程の間に急速に増えて JFC もどんどん売上を伸ばし年商
500億になり、全米の支店・事業所網も25店位に増えました。 その近年の急成長は
アメリカでの寿司、日本食ブームそして食品の冷凍技術の向上に支えられています。

 入社して暫くして、別の総務部に移り、具体的には人事、法務、危機管理、不動産・
建物管理等多岐にわたる仕事をしました。  そして、全米に広がった支店や事業所を
駆け回りました。 お陰でシカゴやニューヨークそしてロスアンジェルス等の大都市から
サンディエゴやシアトル、デンバー、フィニックス、マイアミ、ヒューストン、アトランタ、
ボストン、ダラス、ボルテイモアなどの中都市にも出かけ、オハイオ州のトレドという
小都市にも出張しました。

 アトランタ支店の倉庫を新設するためのプロジェクトが出てきて、建物の建設を
ゼロから竣工まで担当したりもしました。 最後の年には新く購入したロスアンジェルス
支店の倉庫の内装工事の担当をして、毎週飛行機でロスまでの日帰り出張もしました。

 これらの部門は私にとって未経験だったのですが、日本からの進出企業は数少ない
日本人従業員に沢山の部分の仕事をやらせる形を取っていました。 その理由は
日本語が完璧で日系人やアメリカ人より日本の会社のやり方を理解出来るからです。  
この会社は役員とほとんどのマネジャーと支店長は日本生まれの日本人で固めて、
役員会と支店長会議は日本語で行われていました。

 これには、最初私も少し疑問をいだきました。 しかし、しばらくしてその理由が
分かりました。  この会社は日本の食品を売っているのです。 ということは、
日本の文化を売っているのです。 サンフランシスコ支店に日本生まれで日本語の
喋れる中国系の人がいて、昆布とワカメの違いは分かるかと聞いたら、いや分からない
というのです。 彼は中国系のスーパーマーケットとかレストランにセールスに行ってる
のでそういう知識は要らないのです。 しかし、日系の顧客は彼には扱えないのです。 
商品知識だけでなく、商売の仕方とか考え方に関して日本を熟知してなくては
務まらないのです。

 この会社で色々の事に出会い、色々の事を学びました。

 その一つはアメリカは合衆国だということです。 全米に支店網をめぐらしていて
困ったのは州によって色々の事が異なり全国一律の会社運営をするのが難しいのです。 
例えば、年間の休日の設定をするのに州によって休まない所があるのです。 そこでの
昔からの慣習で他社がほとんど休まないから休日にすると苦情が出るというのです。 
我々に分からないのはその休日はナショナル・ホリデイーなのにです。 テキサス州は
特に自分達はアメリカ人ではなくテキサス人だと言い、法律なども他州と異なり、
会社の損害保険はテキサス州にある事業所のみを別保険にして残りの州をまとめた
保険の2本建てにしなくてはなりません。 車の運転や飲酒の出来る年齢も州によって
異なります。 そう、ここでは州の方が強く、この国の名前はユナイテッド・ステイツであって、
州の集まったものなのです。

 次に思ったのは、当局の安全基準等に関する監視、立入検査などが非常に厳しく
罰則も重いことです。 食品会社ですから商品に有害物質等が混入していると即商品リコール、
即ち市場からの回収を命じられ係官立ち会いのもと廃棄となります。  最近は漂白のため
とか保存料として微量の化学物質が入った食品があり、その量がわずかでも基準値を
越していればリコールとなり全国の顧客からその品物を回収しなくてはなりません。

 それから、運輸省のトラックドライバーの運転時間の規制は厳しく一日何時間、週に
何時間以上は運転出来ません。そして運転手は日誌をつけて走行記録を提出せねば
なりません。  これらを運輸省は細かにチェックし違反があれば、即罰金となります。

 それから、日本との大きな違いはこの国は訴訟の国だということです。 何でも
訴えるのです。それは時には莫大な賠償金が支払われるからです。 マクドナルドの
コーヒーで火傷をした人が百万ドル受け取ったりして。 しばらく前にはやったのが
セクハラ事件。 法務担当の頃、会社内でも起こりました。 困るのは本当に起こったかが
分かりにくく、訴えられた側は莫大な弁護費用がかかるので真相究明努力をせずに
示談にして金を支払うことがあったことです。

 それと、契約社会でもあり例えば企業間の建物の賃貸は50ページもの長い契約書を
交わしてからのことになり、その度弁護士に高い弁護料を払い中味をチェックしてから
になり、20軒以上の支店の契約を扱うのは大変でした。

 又、従業員は法律で保護されていて不当に酷使されたり、手当なしで残業を
させられたりということはあり得ません。 もし、起こればすぐに訴訟になり罰金刑に
なりますので企業側も最初からそのような事はしません。 ただ、困るのはこれを
逆手に取って余り働かず労働基準法と労災法を勉強して法律ギリギリ分しか
働かない従業員が出てくることです。 倉庫の担当者で自分のからだの一部分、
例えば、足、腰、腕等が痛いと訴え、労災だと言うのです。 医者の所へ行って
証明書を貰ってくるので会社は認めるしかないのです。 医者は本当に痛いか
どうかは本人が言っている限り否定することはできないのです。 しかも、次から次に
痛い部所が変わっていってのべつ働かないのです。

 では、アメリカ人は働かないかと聞かれると、必ずしもそうではありません。 
日系企業内ではどっちかといえば働かないということが言われますが、それは
会社がちゃんと使っていないからで一般的に言って、アメリカ人も良く働きます。 
体力的にも内容的にもバリバリと働く人は沢山います。 持久力もあり、ものごとを
とことんやるという気構えも持っています。 戦争に勝てなかったのはこれもあるなと
私は感じました。 相手を叩くときは、徹底的に完膚なきまでやるようなところがあります。
武士の情けという言葉も考え方もありません。

つづく