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                   California as I saw  

                                      投稿者:Steve Toda  投稿日:2016年10月14日(金) 
 

  
 カリフォルニア見たまま(11)

 仕事についての話しを続けますが、先に述べたようにこの国は訴訟社会である為、
弁護費用と時間がかかるというマイナス部分もあります。 法務担当をしていたときは
毎日弁護士に電話をして、次々に起る様々な相談をしていました。 この頃には弁護士と
1時間も法律の専門用語を使って議論して、自分でも英語の力は随分ついたなあと
思ったものです。しかし、 その電話相談は1分いくらで弁護費用となっており、月末には
莫大とも言える費用になっていました。 無論、それ以外にも訴訟になれば、法廷に
出廷せねばならなくなるし、相手方との直接協議にも出かけていきます。

 ただ、逆に言えば、法律に反する商行為は出来ないし、不条理な詐欺まがいの取り引きは
横行しにくいという、公平な取引の国であるとも言えます。 そして、それは労使間の
労働条件の面でも言えることで、同じ労働に対しては同じ報酬を払い、不当な労働や残業を
強制してはいけないという社会です。

 一方、企業と個人の関係は日本に較べて弱く、いわば個人はその専門分野で職人的に
仕事をするような傾向があります。 ですから、それが思ったように力が発揮出来ないと
感じたらさっと会社を移ったりします。  会社を変わらない人はいないといっていい程で
むしろ、変わらない人はよほど能力のない人かと思われてしまう位です。

 ではここの企業ではどのような人が組織を引っ張っているのか。 これは私だけの
印象ですが、この国には非常に限られたとてつもなく出来る人物がいて、それらの云わば
天才達がアメリカの明日を切り拓いて国を引っ張っているように見えます。 彼らは
頭がきれて、スポーツ万能で女にもてるナイスガイなのです。 ジョン・F・ケネデイーが
その一人だと思います。 その特徴はガリ勉ではないことです。 ステイーブ・ジョブスも
その一人だったと思います。

 そういうトップの下にはどのような人物がいるかといえば、日本と同じ実務の出来る連中です。 
で、意外なのは日本にしかないと思っていたグループ集団がその仕事の出来る者を
囲んでいるのです。 シリコン・バレーで時々起こるのは、その実務の出来る人物の引き抜きです。  
抜かれた会社からはあるデイビジョン全部がその人について行ってしまうことも起こったとか。 
ですから、ここでは企業の中ですべての者が自分だけで仕事をしている訳ではなく
グループリーダーの下にチームがいるような形で仕事をしているところもあるようです。

 一方、最近の企業の中ではある部分を社外のコンサルタント会社に丸投げするということが
出てきています。 もともとはコンピュータシステムの導入とか経理部門とか専門技術に
からんだ部門で始まったもので、自分では出来ないので専門家に依頼したものですが、
それが経費的負担も軽く従業員を抱える必要がないことなどからどんどん広がって
人事部門や会社の吸収・合併プロジェクトなどから最近はあらゆる部門に広がりつつあります。 
人事部や経理部をなくし、それらをコンサルタント会社にやってもらい、その費用だけを
払うというちょっと不思議な会社経営ですが、かなりの企業でこれを採用し始めています。 
私の息子はこのコンサルタント業界にいます。

 一方、この国では、産、学、軍が密接な連携をしており、シリコン・バレーの発展は
このベイ・エリアに沢山ある大学の存在が重要な役割を果たしています。 軍と企業は
大学に対して新技術の開発を依頼し、その潤沢な資金をつぎ込みます。 そして、
その成果を使って軍と企業は新製品や新兵器を世に送り出します。 中心となる大学は
U C バークレーとスタンフォードの有名校です。 私立のスタンフォードは第二次大戦中は
もと大統領のフーバーの指示で日本の市民生活をつぶさに調査しており戦時中の
新聞から雑誌などあらゆる出版物などを集め、大学の中にあるフーバー・タワーの中に
保管していたと聞きました。 当時のいわば情報戦争の一部を大学が担って、軍の
戦略作成に寄与していたそうです。

 インターネット等のコンピュータの先端技術やGPSの人工衛星技術は元々軍事目的から
始まった技術でそれを民生用にも広げていったものでそれらはこの産、学、軍共同路線
から生み出されたものの一つです。

 ここの企業で働く人々が大事にしていることは、ネット・ワーキング 、即ち知り合い作り
だそうで、これは日本と同じと私には思えます。 ビジネス界で沢山の知り合いを
持っておくことが重要といいます。 それは、学校時代の同期生から始まり、関連企業の
人やその他仕事で出会う色んな人を知り合いにしておくと、いつかどこかでビジネスの
相手になることが出てくるというのです。 その為に、人との交流の場所が色々
提供されているので、そういうところに積極的に出かけることが重要といいます。
業界が行っている、フォーラムと呼ばれる発表会や展示会、見本市(オートショーや
エレクトロニックスショーなども含む)に出て行くことを言っています。 ビジネスは
ここでも人と人との間の取引であることだということでしょう。

 ここでの勤労者の最大の楽しみはバケーションに行くことです。 一年も前から
次はどこに行こうかとプランしています。 家族単位で子供のいる人は学校が
夏休みの間に、旅行やキャンプや色んなバケーションに出かけます。 皆は
この年に一度の休みの為に働いているといって過言ではないほどです。 
何かのアンケートでバケーションに行けないと会社が言ったらどうするという
質問をしたら、会社を辞めるとの答えだったそうです。 そうです、ここでは
仕事よりバケーションが大事と思える位なのです。 実際にはバケーションの
直前に会社がそれを止めることは決してありません。 それをしようとしたら、
訴えられて会社は罰金などの罰を受けるのでどの会社もしません。

 そういえば、ここへきてすぐに日本からの派遣のエンジニアが驚いていたのは
夏の間あちこちの会社に電話すると担当者はバケーションで留守ですから
2週間してからまた電話下さいと言われたことです。 いまでは、一つの仕事を
複数の人でカバーするようにしていますからこんなことは起こりませんが、
非常に専門的な部門では今でもこれが起こります。 そして、それに対して
電話した方も自分もバケーションに行くので納得するのです。

 仕事を毎日続けていると、肉体的だけでなく我々は精神的に疲労するものだと
私は思います。 ですから、年に一度出来れば二週間程仕事から完全に離れて
気分を転換して、疲労から回復しておかないと仕事を続けていけなくなると、
精神科医が述べていたと思います。  別のケースですが、日本からの駐在員で
全く休みを取らないで働いている人がいて、ものすごく疲れた顔をしているのです。 
で、一週間でいいからバケーションに行った方がいいですよと言いました。 
そしたら、家族旅行に行って、すごく晴れ晴れした顔で戻ってきました。

 日本でも最近はバケーションを取るようになったようですが、それでも仕事が
急に出てきて旅行を断念したりするというテレビドラマを見たりすると
まだまだのようですね。

 ただ、私が思ったのは日本では盆と正月といういわば与えられた休みがあって、
車が込んでも飛行機の切符が取れなくても皆が故郷へ帰っていくのがこの
気分転換になっているのではないかと思います。 特に年末は年忘れといって、
要するにあれはその年の積もり積もった疲れを振り払って、心をリフレッシュして
新年を迎えましょうという、いわば強制的気分転換の儀式なのではないでしょうか。

つづく