ひとの健康と人類の持続的発展に寄与する亜鉛 中島 喜教 亜鉛の主な用途は鉄の防錆である。その代表的な製品である亜鉛めっき鋼板は、トタンと呼ばれ、 古くから屋根板などの建築用材やバケツなどの日用雑貨品に使用されてきた。 余談だが、昔ポルトガルでは中国からの亜鉛をTutanaga(ツタンナガ)といい、それが日本で トタンの語源になったといわれている。そのトタンも、近年、製造技術の進歩により、 品質水準は 著しく向上した。今では建築材はもとより自動車・電気製品・家具その他幅広く使用されている。 特に世界でも最高の品質水準にある日本製亜鉛めっき鋼板は、中国向け鉄鋼の主力製品のひとつと なっている。 また一般溶融亜鉛めっきも鋼構造物の防錆に大きく寄与している。送電鉄塔、変電所、鉄道、 ガードレール、橋梁、通信施設、船舶の配管、ビニールハウスの鉄骨、最近では立体駐車場、 マンションの非常階段、太陽光発電の架台、高いクリーン度を求められる工場の鉄骨等々 数え上げればきりがない。 亜鉛は表面に形成される化合物の膜でまず自分を守り、次に膜が傷つけられたときは おのれ自身を犠牲にして錆から鉄を守る。 防錆の仕組みは二段構えである。しかも丈夫で長持ち。即ち、亜鉛は資源を無駄にしない 高度循環型社会にマッチした、人類の持続的発展に寄与する金属である。 その他の亜鉛の用途には、乾電池の電極材料、黄銅に代表される銅合金材料等が挙げられる。 また、亜鉛合金はダイカスト部品としていまなお自動車・電機産業を支え、亜鉛化合物は タイヤをはじめ化粧品等に幅広く用いられている。 ひとが健康な毎日を送るためには、人体にある一定量の微量ミネラルが不可欠である。 特に亜鉛は銅や鉄と同じようにいろいろな酵素の活性基として働いており、細胞分裂に関係する 微量ミネラルである。 赤ん坊は大人より短い周期で新陳代謝を繰り返すため、肌はすべすべである。 この新陳代謝に欠かせないのが、亜鉛の酵素である。 亜鉛は免疫にも深く関わっている。胸の中央にある胸腺は、病原菌を攻撃するT細胞の形成や 分化を担っている。亜鉛が不足すると胸腺の働きが半減し、T細胞の働きも不十分となる。 亜鉛が欠乏すると味覚および嗅覚異常を起こす。原因は、亜鉛が体内のDNA、蛋白合成に 関与するため、この欠乏が味蕾細胞や嗅細胞の変性をきたすからである。 また余談だが、東京は新宿にミネラル豊富な食材だけを使った創作料理のレストランがある。 店の名はズバリ「AEN」。ワインも含めてとにかく美味い。 亜鉛は別名「性のミネラル」と呼ばれ、前立腺、精巣、精液および精子に多く含まれる。 不足すると精液・精子の量が減少し、生殖能力低下の原因となる。 即ち、亜鉛は命の継承に欠かすことができない。 最近、キレる子供が多い。亜鉛が少ないインスタント食品が一因ともいわれている。 ふと考えたら、少子化の遠因もそのあたりにあるかもしれない。 子供も大人も、蠣(カキ)を食べよう。平和な社会と日本人の持続的発展のために。 (平成17年12月5日 産業新聞 産業春秋)