「金属」創刊75周年記念特集U 材料が技術に与えたインパクト IT化の陰の立役者 一 銅箔 中島 喜教 はじめに LSI,1C.コンデンサーなど多くの電子部品を絶縁仮上に固定して.各端子を接続するのが プリント配線板である。 プリント配線板は家電、オーディオ、情報・通信機器、自動車、 航空機、工作機械、計測機器、産業用制御機器、 玩具等々民需、産業の幅広い分野で 使われている。 それを陰で支えているのがプリント配線板の主要材料である銅箔である。 昔のラジオなどは部品と部品を一つひとつ電線で接続し、ハンダ付けしてセットを作って いた。 プリント配線板は絶縁板上に銅箔を張った銅張積層板に配線回路を印刷し、 エッチングで必要な線を残し、穴をあけて部品を差し込みハンダ付けする。従って 大量生産に適し、小型化が可能、かつ信頼性が高いのでほとんどの電子機器に使用される ようになった。更に、小型化された部品の表面実装化技術が進んだことより高密度実装が 実現され、特に最近のパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、薄型テレビ、ビデオカメラ、 電子手帳等の進歩が加速された。それらデジタル製品の軽量・薄型・小型化や高性能化に 大きく影響を与えているのが銅箔の品質向上、高機能化といっても過言ではない。 本稿では電解銅箔の製造方法の概要、プリント配線板と銅箔に求のられる要件、銅箔の 種類とその用途、世界の銅箔生産量と日本の現状について順を追いながら錮箔が IT(情報技術)に与えたインパクトについて述べる。 電解銅箔の製造方法の概要 一体電解銅箔とはどんなものなのかを理解してもらうためにまずその製造方法の概要を述べる。 図1に電解銅箔の製造工程を示す。 溶解工程 : 裸電線状の銅原料を溶解槽に装入し、硫酸の水溶液を循環させて硫酸銅溶液を つくる。通常、原料はスクラップと呼ばれるが、電気銅と同程度の品位のものが 多い。 電解工程 : 電解採取による電気銅製造と同じ原理である。すなわち不溶性陽極と回転ドラム (陰極)の間に溶解工程から送られてきた硫酸銅溶液を補給し陽極から陰極へ直流を 通電するとドラムに銅が析出する。ドラムを回転させながら析出した銅をドラムから 連続的に剥いで巻き取る。この銅箔を析離箔(ドラムフォイル)と呼ぶ、電解槽から 排出された電解尾液は溶解工程へ戻る。余談だが、析離箔の厚みを変更する場合は、 一般に電流量を一定にしてドラムの回転速度を変える。 表面処理工程:一般に析離箔はドラムに接した面(S面=Shiny Side)は平滑で反対側の 析出面(M面=Mat Side)は凹凸状、すなわち表面は粗い、しかし、そのままでは 基材へ按着したあとの引き剥がし強さが弱く、表面が酸化されてプリント基板の 材料としては機能しない。引き剥がし強さ強化のため通常は析離箔の析出面に 鋼のコブ(注1)を付け、そのあと表面に防錆処理を施し表面処理箔とする。 その装置は表面処埋機と呼ばれ、数種の電気めっき槽、洗滌槽、乾燥、欠陥検出機 から成り、ロール状の析離箔を連続的に処理する。 製品工程 : 表面処理箔は所定の幅にスリットされ所定の長さになるまでロールに巻き取られ、 梱包して積層板メーカーやプリン配線板メーカーへ出荷される。 塗工工程 : 現在日本では製造されなくなったが、スリットされた箔の表面処理面を塗工し、 乾燥後所定の長さに切断して接着剤付銅箔(ACC=Adhesive Coated Copper)として 紙にフェノール樹脂を含浸させた基材用に出荷された。 最近は接着剤の代わりに エポキシ樹脂を塗工した樹脂付銅箔(RCC=Resin Coated Copper)が開発された。 そのためRCCは後述のプリプレグなしで直接積層できるためビルドアップ多層板の 外層に用いられる。 (注1)銅のコブ:電気化学的または化学的方法で銅箔の表面に析出させた粒状の銅