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                      地球温暖化−将来への対策(14)
 

                                              投稿者:風鈴  投稿日:2010年 3月 9日(火)

   
       C)ブラジルのエタノールの良さ

 昨年4月のイギリスBBCの記事に”Dirty energy threat to green Brazil、汚いエネルギーがブラジルを
 脅かしている”とありました。 http://news.bbc.co.uk/2/hi/business/7976495.stm
 これは水力発電所建設許可が取りにくいので、CO2放出の天然ガスで発電を増やし、今後石油生産も増える
 ので将来への方向へ危惧ありとの内容です。しかし世界全体から見ると中国、インド、アメリカなどが余程
 重問題で、ブラジルは風力発電の企画もあり、エタノールが燃料のタービンも開発中、それにガスでの
 複合発電はCO2放出が石炭・石油の半分なので、むしろ他国が学ぶべきと言えるくらいです。

 この記事の一部に、ブラジルの再生可能エネルギー生産は総一次エネルギーの46%を占めるとありました。
 しかし、それは水力発電が主でエタノール生産量は総エネルギーの割合から見ると、そう高くありません。

 消費では総エタノールが14.32億リットルでガソリンが14.11億リットル、エタノールが約半分以上は
 素晴らしいのですが、EIAの http://www.eia.doe.gov/emeu/cabs/Brazil/Oil.html の情報では、
 2008年の石油生産は1日に240万バレル、消費が252万バレルで、
 下のグラフは2000年からの生産(青の線)と消費(赤)の量で、今年くらいに生産が消費を越す
 様子です。
 2008年のエタノール生産は1日に45.4万バレルで約石油の19%でした。

 ところが実際は、もう少し複雑になります。この情報には石油(Oil)240万バレルの76%が原油
(Crude Oil)とあり、後の24%が何か明確でありません。メタン、エタン、プロパン、ブタンは温度が
 零下20度より高いと全部蒸発しますが、これ等が24%に含まれているのか、それともブラジルの精油所で
 処理出来ない物質が24%なのか分りません。
 そこで生産された240万バレルの76%、182.4万バレルの原油が事実上の生産量となります。
 ブラジルの精油所は合計で1日に190万バレルを処理する能力があり、国内生産石油の78%を処理して
 ますが、設備が高等でなく、重い原油は輸出して軽い原油を輸入しているので、正確な量を出すには余計に
 難しくなります。

 それに原油の何%がガソリンになるかは、原油の出所によっても違い、参考文献によっても収率が異なり、
 2月16日の「バイオ燃料 2」で46%を使いましたが、原油1バレルから取れるガソリンは25−35%
 と言う http://www.elmhurst.edu/~chm/vchembook/513refining.html のもあり、精油所からの収率は
 46−48%のEIAの http://tonto.eia.doe.gov/dnav/pet/pet_pnp_pct_dc_nus_pct_m.htm もあり
 一律に「ブラジルの総一次エネルギーで石油は何%である」と余程立ち入った調査をしないと分りません。

 以前、3月 1日に「ブラジルの車とエタノール」で引用したラテン・アメリカの「グリーン・モメンタム」の
 サイト、http://www.greenmomentum.com/wb3/wb/gm/gm_content?id_content=5055 に「ブラジルの
 サトウキビからの再生エネルギーは総エネルギーの16%を占める」とありました。
 この16%は何処から出したのか分りませんが、どの情報も時間と情報源によって違い、正確な状態を
 掴むのは難しく、化石燃料(石炭、石油、天然ガス)が総一次エネルギーの45−50%だと推測して
 良さそうです。

 ブラジルのエタノールの良い面は生産効率にあると言えるでしょう。
 サトウキビから糖分を抽出した後、沢山のbagasse(バガス、要らないサトウキビの捨てがら)が残ります。
 2007年に収穫された3億トンのサトーキビから5千万トン(約5分の1)のバガスが残り、それを燃料に
 して発電した電力はエタノール生産工場で使うので、ほとんどの工場は自給自足、それに電力が余り、
 ある工場は600メガワットを工場で使い100メガワットを電力会社に売ってます。バガスを使っての
 発電は2007年に3ギガワットで2014年には12ギガワットを越す見込み、この調査によると
 バガスからの複合発電は総エネルギーの3%を占めていると分ったそうです。
 3%とは大した電力みたいに響きませんが、日本のソラーパネル発電量は総電力の1%にも達しません。

 オランダ政府から委託された調査によると、1トンのバガスからの発電量は12.9kWh
(キロワット・アワー、12.9キロワットを1時間使用)が見積もられていたが、事実は9.6kWhが
 最高で、これは将来18−29.1kWhに改善出来ると分りました。
 バガスからの発電は水力発電ダムの水が低くなる乾燥期に出来るので重要な発電源になるそうです。

 一番素晴らしいのは Energy Balance で3月 1日の「ブラジルの車とエタノール」で述べましたが
 「1単位のエネルギーから8.3から10.2倍のエネルギーを製造している」ということでしょう。
 耕作、肥料、収穫、運送、燃料、労賃、エタノール生産に使うエネルギーを合計したのが入力になり、
 生産されたエタノールが出力で、その出力が入力の8.3から10.2倍のエネルギーがある
 ということです。

 下の2番目の棒グラフはイギリス政府の2008年1月の調査から出来たものですが、このオリジナルが
 見つかりませんでした。
 色々な燃料が左側にあり、横の目盛りは各燃料から出されるCO2の割合です。
 ブラジルのエタノールは優秀ですが、驚いたのは次に良いのが何とモザンビーク、同じ
 サトウキビ・エタノールでも南アフリカとパキスタンのエタノールはガソリンより多いCO2を放出し、
 アメリカのコーン・エタノールも同様に多く、同じのコーンでもフランスのはガス燃焼より少ない、
 とか同じ材料でも耕作・生産過程で大きく違ってます。
 上記の耕作、肥料、収穫、運送、燃料、エタノール生産過程から出るCO2が含まれているので、
 全ての工程を改善しないと、世界一のアメリカのエタノール生産もCO2削減には全く怪しいものです。

 アメリカの環境保護省((EPA)の調査では、ブラジルのエタノールはガソリンからのCO2放出と比べ61%
 削減する、と認めました。厳しい「カリフォルニア・低カーボン基準、LCFS、California Low-Carbon 
 Fuel Standard」と連邦政府で提案されてる「再生可能エネルギー基準、RFS2、Renewable Fuel Standard」
 の両方の規制をも満足させて、基準を作成したアメリカのエタノールより数段階優秀であるとは皮肉です。

 アメリカ、ドイツ、ブラジルのエタノールの値段を比べています。アメリカとドイツでは人件費、材料が
 高いのは当然ですが、ブラジルの生産効率の良さなどは隠れていて見えません。日本政府が沖縄で
 サトウキビ・エタノール試験生産を批判していますが、ドイツの価格と同じくらいになるのは当然で、
 どこの市場でも高すぎて、アメリカみたいに補助金で生産も大疑問、それが批判の理由で、
 もっと効率が高い水藻の研究に投資するのが賢明だと言います。