「観光立国日本」第2回 イマジン (注) 特命担当室は、田村室長、岡本補佐が観光産業の検討、青木係長チームが、経済分析、法令による産業構造変化 の強制、誘導政策等の検討、そして堺谷係長チームが財政誘導政策等の検討を担当、と職務が決定され、活動を 開始した。 青木係長の下にいる経済職の山本と尾上が、まず、イギリスとアメリカの経済について考えをまとめ、イギリスは 大英帝国の遺産と産油国としての経済力で今後も一定の存在感を示し続けるだろう、物資の輸送手段である車、 航空機等の製造産業で20世紀を支配したアメリカは、情報を輸送する手段であるインターネットを支配する事に よって、21世紀も世界を支配し続けるだろうと予言する。 そしてこのような基礎的な研究が、世界政治、文化等に広がっていく。 (3)アメリカの陰謀 「あなた、いよいよ月下美人が咲きそうよ。」と庭の温室から声がした。 奥津は、書斎からでて温室に向かった。 温室では、昨日まで垂れ下がっていた月下美人の蕾が、首を持ち上げていた。その傍にイスをすえて開花を待った。 「昼間来たあの若い人たちは、本当に日本を変えてくれるのかしら。兄のように神風特攻機に乗って死ぬような事を 止めてくれるでしょうか。」 「それは、信じるしかない。いつの世も、時代を変える人間は若者だよ。若者と言うには、彼らは少し ひねているけれどね。 君の兄さんが、鹿児島の知覧から不意に帰ってきて、しかも酒を飲もうじゃなくて、月下美人が咲きそうだから 見に来いと言った時にはビックリした。7月の終わりごろだったね。暑い日だった。 薄暗い電灯の下で見た月下美人は、本当に白く、美しかった。 君も一緒に見てくれたが、あの時が君と会話をした最初だったね。兄さんとは小学校時代からの親友で、お互いの家に 行き来していたのに。」 「あなたが来たときは、いつも奥の部屋に隠れていたんだけれど、あの時は兄がどうしても一緒に見ろ、と恐い顔をして 言いつけたのよ。」 「あら、咲き出したわ、綺麗、本当に綺麗ね」 「綺麗だね、本当に綺麗だ。60年前に見て以来、月下美人は全然変わらない。綺麗で、ほっそりしていて、色が白くて、 華やかで・・・・・・・・昔のままだ」 4人は、横浜駅で降りて、海岸沿いの住宅地の坂を上って行った。 古くからの住宅地らしく、人通りもあまり無く、時折散歩の途中らしい年配の人に出会うだけだった。 先生の家は、大きな屋敷の傍の小さな家で、おもちゃのような小さな門を過ぎるとすぐに玄関があった。 玄関で案内を請うと、色の白い老婦人が出てきて、書斎らしい一室に通された。 狭い部屋で、応接セットは4人が精一杯で、田村室長と岡本室長補佐、青木係長が座ると山本は座る所が無くなった。 老婦人が慌てて食卓用らしいイスを運んできて山本に勧めた。 程なくして、80歳を超えたような老学者が現れた。 「奥地です。遠路よくきて戴きましたね。」 4人が一斉に立ち上がり、挨拶を交わした。 山本が、「面白い政治学者がいますよ、地政学にも詳しいようです。世界全体をユニークに見ていて、しかもアメリカが 専門のようです。何といってもまずアメリカから勉強しましょうよ」 と行って、3人を引っ張ってきたのである。 「お忙しい所、お会い頂いて恐縮でございます。」 と田村が応じた。 「いやなに、大学をやめて20年もすると、すっかり忘れられましてね、弟子の教授も盆暮れに顔を出すだけに なりました。お客が来るのは嬉しいんですよ。」 「いい眺めですね。海が見えて」と岡本がお世辞でなく、感嘆したように言った。横浜駅の近くにこんな静かな住宅地が あり、しかも窓からは海が広々と見える。4人とも、同感だった。 先生が後ろを振り返りながら、 「この家のいいところは、海が見えるということと、もう一つは風通しがいいことですな。夏でも殆どクーラーが 要らないのです。 大学を辞めて家を探していたら、面白い不動産屋と知り合いましてね。 その不動産屋が、年寄りが過ごすのにいい家があると言ってきたんです。 年寄りなんて失礼なことを言う奴だと思いましたが、それが言うには、風の道に面して家があるというんです。 風の道とは何だといいましたらね、学者の癖にそんなことも知らんのかと、言うような顔をしましてね、風が吹きぬける 場所は、古来から地形的に決まっているというんです。 それを風の道と云うんだそうです。 案内するというもんですから、見に来たんですが、いっぺんに気に入りました。 30年以上過ぎた古家だから土地代だけで安く買える、家もしっかりしていて少し手を加えれば、先生が生きている間 ぐらいは大丈夫ですよ、先生には丁度いいでしょう、と云うんだな。 どこまで失礼な奴かと思ったんですが、本当だからしょうがない。 家内も気に入りましてね、すぐ買いました。 住んでみると、本当にいい買い物でしたね、すっかり気に入りました。 東京の小さな不動産屋ですが、家が心配だと言って、時々ぶらっと立ち寄るんですよ、なに、碁が好きなんですが 口が悪いもんだから、相手がいないんでしょうな、家を見るなんて口実で、私と碁を打ちに来るんです。 仕方ないから、相手をしてやっているんですよ。」 丁度、紅茶を持ってきて、配膳していた老婦人が、 「あらあら、北田さんもこの前帰る時に、そんなことを仰っていましたよ、先生も相手してくれる人がいなくなって 淋しいんでしょうね、って」 とからかった。 こんな雑談をいつまでも続けられたらたまらない、と岡本が、「先生は長くアメリカを中心に世界を・・・」と言いかけた。 「アーあ、分っていますよ、山本さんから趣旨は聞いていますからね、それでは始めましょうかね。」 と言って、口調が講義調になった。 「いいですか、アメリカはね、凄い国ですよ。 あなた方はブッシュのイラク進攻は、テロを抑えるためのものだとか、石油が欲しくてやったのだと思っているしょう。 全く違いますよ。 あの戦争の目的は、アメリカの野望を実現するためのものです。 その野望とは何か、それはアメリカの軍隊が世界の警察軍だということを世界に認めさせることです。 そして、それは100パーセント成功しました。 世界がアメリカを非難している理由は、イラクに大量破壊兵器がなかったということでしょう? 裏返して言えば、大量破壊兵器がイラクにあったら、世界はその正当性を認めたということです。 アメリカを始め、イギリス、フランス、イスラエル、中国、ロシア、パキスタン、インドなど等、多数の国家が保有し、 かつそれを公言しています。 その中でイラクだけがなぜ進攻されるのでしょうか。 これはね、アメリカが持ってはいけない国と決めたら、持ってはいけないということなのです。 今回のイラク戦争を非難している国は、アメリカが持ってはいけない国だと勝手に決めたことを非難しているのではなく、 大量破壊兵器がなかったということを非難しているのです。非難している国ですら、それが本当だったら、侵攻しても いいという事を認めておるんです。 つまり、これはアメリカ軍が、世界の警察軍だということ認めたことと同じなんです。だから、アメリカとしては 大成功なんです。 じゃあ、アメリカはなぜ世界の警察軍を持ちたいのでしょうか?分かりますか?分からないでしょうね。 アメリカはドルを世界の通貨にしたいのですよ。 通貨は信用が最も大事です。信用は何から生じるか、それは力です。力こそ信用なんです。 ユーロはヨーロッパでのみ流通し、なぜ世界通貨になりえないか、それはヨーロッパが、アメリカ軍に劣る NATO軍しかもっていないからです。NATO軍は各国軍隊の寄せ集めです。軍隊としてもっとも必要な一糸乱れぬ 統一性に欠けているんです。 しかもNATO軍は、実質的にアメリカ軍の指揮下にあります。アメリカの了承なしに世界に展開することは 不可能なんです。 こんな状態では、世界中の企業が、未来永劫にわたってユーロを信頼することは到底できないから、世界通貨に なりえないのです。 それでは何故アメリカは、ドルを世界通貨にしようとしているのでしょうか? それはね、アメリカの輸出品の最大のものがドルだからです。 アメリカの最大の産業は印刷業です。ドルを印刷する印刷業です。 ドルを製造業の製品と考えてみてください。 ドルの製造原価は一円にも満たないでしょう。原価の大部分は印刷機の減価償却費、紙の費用、インク代それに 若干の人件費だけです。その人件費だって、印刷は自動化に自動化が進み、いまや工場は無人です。全体の費用 からすれば微々たるものでしょう。 デザインはどうか、ルーズヴェルト以来約70年にもわたって同じデザインです。今後も恐らくデザインを 変えないでしょうし、世界各国の50億の人間に、これがドル紙幣だと知らしめるためには変えてはならないのです。 しかも、流通経費はただです。というよりも、流通経費でも儲けているんです。各国の銀行が利子という形の費用を 払って購入し、自分で運ぶんですよ。 デザイン費用は要らない、製造原価はただ同然、流通経費は向こう持ち、しかも受け取った方が利子という お礼を払う。こんな有利な製品が他にありますか。 民間企業だと法人税と言う形で政府が費用を徴収しますが、法人税は最高でも50パーセントが限度でしょう。 しかし、この印刷業は国営です。中間マージンはゼロで儲けはすべて政府が使えるんです。 さて、今紙幣という形のドルについて説明しました。 これ以外にドルには、国際ビジネスの決済通貨として使われる役割があります。 これは紙幣ではありません。単なる数字です。銀行口座の数字のやり取りに単位として使われているだけです。 これは単なる数字ですが、しかし、その数字は独り歩きを始めます。口座に書き入れられた数字だけには 止まりません。 何故なら、この数字を使って口座名義人は利子を得ようと考えますし、又銀行もこの数字を使って商売を しようとします。名義人が利子を得ようとするのは当然ですし、銀行は正にそれが商売だからです。 これらは、高リターンを求めて企業や国に貸し付けられますが、その残りはアメリカの国債に向かいます。 するとアメリカ国債が売れます。国債を売った金は国の費用に使えます。 此処まで聞くと皆さんは、それじゃアメリカは膨大な赤字を抱えるじゃないか、いずれ、アメリカは 破産すると思うでしょう。 そう思っても、私はあなた方を非難できません。 今から、約35年前、ニクソン時代のアメリカは今のあなた方と全く同じ考えでした。 そして今も多くの人たちがあなた方と同じように考えています。 当時、ドルが国際的に信用されていたのは金と交換できるからだと思われていました。 金と交換できるから、国際通貨として皆が安心して使っているのだ、と皆が思っていたのです。 そんな状況下、ベトナム戦争等でアメリカは膨大な国際収支の赤字となったのです。そのドルの赤字に 見合う金は全然ありませんでした。 アメリカは破産するのではないかと皆が心配しました。 その解決策は、ドルを金に交換する金本位制を廃止することでした。しかしこれを廃止すれば、ドルの 国際間における基軸通貨としての役割はなくなってしまうだろう。そうすれば、アメリカはもっと酷い 状態になると信じられていたんです。 ニクソンは本当に偉大な大統領でしたね、ベトナム戦争を止めたのも彼だったし、彼以外にやれる人は いなかったでしょう。 ニクソンは、ドルが信認されているのは金と交換できるからではなく、アメリカに対する信用から なんだと自信を持っていたんです。 ニクソンは本当に知的な偉大な大統領でした。ウォーターゲート事件で糞味噌に言われていますがね。 私は彼の知性を本当に尊敬しています。 知性とは、ケネデイのように、古典やボブ・デイランの詩を暗唱して演説に使ったりすることでは ありません。 知性とは、判断する前提になる事実を適切に選択し、その事実に自らの信じる理論を適用して将来を 的確に予見し、予見したことを自ら固く信じ、信じたことを決然として実行する能力です。 どうです?知性は勇気に似ていませんか。そうです、勇気と知性は表裏の関係にあるんですよ。 昔、イギリスにイーデンという首相がいました。あなた方は知らないでしょうね。 ケンブリッジ出身でイギリスの知性を代表するといわれた人ですがね。 しかし彼の同級生は、首相になる器の者は第一次世界大戦で皆戦死した、彼は生き残ったから 首相になれた、と陰口を言っていました。 これは本当でしたね、何故なら、彼のケンブリッジの同級生の三分の一は戦死しているんです。 何故こんなに戦死率が高いか、それは彼らが将校として、突撃の時はいつも兵の先頭に 立っていたからです。 良いですか、戦場で勇敢に戦う者は、ギャングや体格がよくて威勢のいい者ではないんですよ、 ひ弱に見える知性派なんです。 いや、余計なことをいいました。 話を元に戻しましょう。 だから彼は、自信を持って金との関係を断ち切りました。そうするとドルは弱くなりますね、ドル安です。 しかし、ニクソンはどんなにドル安になっても動じなかったんです。ドル安になればなるほど過去の 債務は目減りするし、ドル安になった分だけドル紙幣は多く供給する必要があり、そのような需要に 応じてドルをドンドン刷れるからです。 アメリカは、ドル安になればなるほど国家財政は豊かになるんです。 インフレになって、アメリカが困る事が何かありますか、何もありません。インフレになればなるほど、 アメリカは豊かになるんです。 しかし、どうして借金を返すか、ですって? 何故返さなければならないんです? 誰も返せと言っていないのに。 アメリカが借金を返したら困るのは、借金を返された方ではないですか? 返されたドルをどうするんです? アメリカ以外の国に対して借金の返金や製品の代金として使う? 相手方だってアメリカから借金を返されてどうしようかと悩んでいるんですよ。受け取るはずが ないじゃないですか。 そうなるとドルは紙くずになります。紙くずになって困るのはアメリカ以外の国ですよ。 これはすなわち世界が、戦後のドイツや日本のように大インフレとなる事を意味します。 世界経済は大混乱するでしょう。 世界経済と言ってもアメリカ以外の国の経済ですがね。 アメリカは借金を返してぬくぬくとしているでしょう。そして、世界経済を救うとか何とか言って、 ドルの国際的なデノミを実施し、新たな単位のドル紙幣を発行するでしょう。アメリカは刷って刷って、 大儲けです。 しかし、こんなことが出来るのは、ドルが世界の基軸通貨だからです。前にも言ったように、 基軸通貨であるためには、力が必要です。その力は軍です。 イラク戦争では、フランス、ドイツは国連で強硬に反対し、イラクに行きませんでした。しかし、 イギリスは賛成してかつ参戦しました。 なぜだと思いますか? フランスとドイツはEUの盟主だから反対したのです。盟主としてユーロの実質的な支配者だからです。 ユーロは現在、EU加盟国間の地域通貨に過ぎませんが、ユーロを国際通貨の一つにするには、 両国にとって、ドルの力が強くなることは困るからです。アメリカに従って、国連で賛成することは ドルが益々強くなり、ユーロの将来を閉ざすことになるからです。 とりわけ、トルコがEUに加盟しようとしている現在、トルコを通じて中東に進出し、 ユーロがEU内の地域通貨から抜け出し、ユーロを国際通貨の一つにする初めての絶好の機会を 目前に控えているのです。しかも、石油の大半を埋蔵する中東を押さえる事は、世界経済を 押さえる事と同じだと言ってもいいでしょう。このようなときに、アメリカがイラクに進出することは、 ユーロにとっては、許し難いことだからです。 これに対してラムズフェルド国防長官は、フランスとドイツを古い欧州と言ってけなしましたね。 これにフランスとドイツは激怒しました。 激怒したのは、お前達はEU成立以前の古い時代の独立国だったフランスとドイツを夢見ているだけだ、 ユーロは新しい欧州を象徴するNATO軍が守る、フランスとドイツの軍隊じゃない、お前達はアメリカで 言えば州のようなものでその軍隊は州兵のようなものだ、というのに等しかったからなのです。 そもそもアメリカは、トルコのEU加盟の動きに危機感を抱いていました。トルコを通じて中東を ユーロが押さえる事は、ドルの国際基軸通貨としての地位を根底から覆す大きな危険があるからです。 そこで、なるべく早く中東にアメリカ軍を派遣し、トルコのEU加盟前に中東を押さえてしまいたかった のです。そのためのイラク侵攻だったのです。 しかし、アメリカは当初両国の参加を求めました。国連でユーロの支配者である両国が賛成すれば、 ドルの優位性を世界に示す事ができるからです。 しかし、一方では、両国の参戦は、かつてヨーロッパに君臨していたドイツとフランスという古い 欧州の亡霊を引きずり、一歩間違えば両国が支配しているユーロの力の増大につながり、ドルの 世界制覇のためには有害となる危険性もあったのです。しかし、そのリスクを犯しても、 国連の承認の下で、フランス、ドイツを従え、中東を押さえれば、ドルの将来にとっては、 総合的に見れば、はるかに有利だと判断していたのです。 当然のごとく、両国は国連で最後まで反対しました。アメリカと同じ見解だったからです。 しかし一方では、万が一アメリカが国連の承認なしでもイラクに進出する場合、中東という 石油供給地の紛争に両国が関与しないのは、ユーロの将来にとって好ましくないし、又、 両国が国際紛争の局外に置かれるのは、両国の将来にとっても好ましくありませんでした。 そこで両国の戦略は、国連で反対しアメリカのイラク進出を全力で阻止しようとするが、 国連の承認なしにアメリカが敢えて侵攻する場合は、軍隊を送って参戦し、実績を作って おくというものでした。 此処で、両国はアメリカ軍の力と意図を見誤っていたのです。アメリカは両国の軍事力を 必要としていると思っていたのですが、アメリカにとって、大軍は全然必要なかったのです。 何しろピンポイント攻撃を意図していたのですから。 国連の承認が無い場合の両国の参戦は、ドルにとって有害そのものです。そこで ラムズフェルドが古い欧州と発言して両国を侮辱し、むしろ参戦できないようにしたのです。 これに対して、イギリスは国連が賛成するように動きました。それは、ポンドが、既に ドルほどではありませんが、ドルと共に地域の基軸通貨としてそれなりの地位を持って いるからです。だからこそEUに加盟はしても、ユーロを通貨としては採用していないのです。 イギリスにとって、ドルの力が増大することは好ましいことなのです。それとともに 地域の国際通貨としてのポンドも成長できるからです。 イギリスにとって、今回のフランスとドイツの動きは願ってもない動きでした。それまで、 ユーロがポンドの地域通貨としての地位を脅かしつつあったからです。 また、今回のドイツ、フランスの動きは、ポンドの脅威だったユーロの地位を低下せしめた のみならず、EU内におけるドイツ、フランスの盟主としての地位を脅かし、相対的に イギリスの地位を高めています。 ブレア首相は、フランスとドイツから、アメリカに対する忠勤振りを、ブッシュ大統領の スピッツと揶揄されましたが、ブレアは屁とも思っていないでしょう。イギリス政界は、 今回のブレアの動きは、ヨーロッパにたいする第二次世界大戦後の最大の外交的勝利と みなしているようです。 更に付け加えれば、アメリカは国連が承認しなかったことを、今では良かったと 思っています。何故なら、アメリカ軍は国連の承認がなくてもイラクで世界の警察軍 として充分に行動でき、その実績を作ったのですから。 だから、アメリカにとっては、イラク戦争開始後、国連は不要になってしまいました。 だから、安保理を改革する事に消極的なんです。安保理がいまや機能不全に陥って いるのは誰の目にも明らかですが、アメリカにとってはそれで良いのです。安保理が 活発に活動して、アメリカの邪魔になっては困るからです。 それよりも、無駄な費用を使いたくないので、なるだけ事務局を改革し、簡素化 したいんです。それで、元々国連不用論を主張してきた強硬派のボルトン大使を 国連に送り込んでいるのです。 先程、アメリカは、イラクでピンポイント攻撃を意図しており、大軍は必要なかった といいましたね、フランスとドイツはそのアメリカの意図を見誤ったといいましたね。 イラク戦争は、ピンポイント攻撃を史上初めて本格的に採用した記念すべき戦争です。 かつて、戦争は、大軍を動員し、火力と兵隊の数で敵を圧倒し、敵の首都を目指して 進軍し、ついに首都を占領してその中心に国旗を翻す、これを、目的としていました。 首都に敵軍の国旗が翻ったら、その国全体が降伏して占領軍の意向に従ったものです。 しかし、現在は違ってきました。 イラク戦争の前のアフガニスタン戦争から、戦争の形態が変わってきたんです。 そのような古典的な戦争は終ったのです。首都を占領されても地下にもぐり、 ゲリラとして、テロリストとして戦闘を継続しています。 アフガニスタンの実質的な支配者だったウサマ・ビン・ラデインは、今もなお地下に もぐり抵抗しています。もっとも、腎障害で透析を受けるような病状だったので 今でも生きているかどうか分りませんがね。 このような戦争の変化をいち早く気付いたのは、新保守主義者・ネオコンといわれる チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官でした。 其処で彼らは、大軍を動員しないで、フセインを殺そうとしたのです。 彼らは、アフガニスタンでピンポイント攻撃の能力を実証し、確信を得ていました。 しかもその能力があることを世界に宣伝しました。 その宣伝の目的は、ただ一つ。次の戦争はこのピンポイント攻撃で指導者をまず 最初に殺すということでした。 しかも、ネオコンはその実験までしたのです。 覚えていますか?イスラエルが、パレスチナの指導者が乗っている乗用車をミサイルで 攻撃して、暗殺した事件を。 あの指導者は、建物から出て、車に乗った数分後に暗殺されたのです。 どうしてあんなことが出来たと思います? アレをやる為には、はるかな遠方から、動いている乗用車をピンポイントに攻撃する 能力が必要です。乗用車は動いているんですよ。動いている乗用車にミサイルを正確に 誘導する必要があります。これは明らかに監視衛星の情報です。 また、動いている乗用車に目的の人物が乗っているということを知る必要があります。 しかもミサイルが車に到着したのは、指導者が乗った数分後ですよ。 車に乗った直後に、その情報をイスラエル軍が知り、指揮官が直ちに命令しなければ、 不可能です。 こんなことが、イスラエル軍独自で出来ると思いますか? これはね、アメリカ軍の宇宙からの監視能力と、アメリカ軍が持つピンポイント攻撃 能力そのものですよ。 間違いなく、これはアメリカ軍とイスラエル軍の共同作戦です。そのほとんどは恐らく アメリカ軍の作戦でしょう。 この実験でネオコンは自信を持ったのです。いつでもフセインを殺すことができると。 しかし、この作戦には、一つの重大な欠陥がありました。 このようなやり方は、暗殺とみなされているからです。 戦争ではないからです。 国家にとって、殺害が正当性を持つ為には、戦争が必要なんです。 戦争の中で殺すことが必要なんです 戦争の中で、確かにアメリカが攻撃して殺したと世界中に認めさせなければならなかったんです。 イスラエルが許されたのは、戦時と同様な長年の間のパレスチナとの抗争があったからです。 幸いな事に、フセインは反抗を続けました。 これは、アメリカとネオコンにとっては、千載一遇のチャンスでした。 即ち、アメリカの国家戦略である、中東をユーロが進出する前にドルが抑えるということを 実現できるし、また、このピンポイント攻撃で、いかなる国であれ、その国の指導者を自由に 殺すことができることをも実証できるからです。フセインを殺すことで、これを世界に 示そうとしたのです。 しかし、フセインをピンポイント攻撃で殺そうという意図は、実現できませんでした。 アメリカ軍が反対したのです。軍の指揮官達は、大軍を動員し敵の首都を目指して進軍する、 首都を占拠して指導者の降伏を求める、という従来の戦争の姿から抜け切れなかったのです。 そこで中途半端な戦争が始まりました。 ピンポイント攻撃は指導者にではなく、イラク軍そのものに向けられました。しかも、 その攻撃能力は充分に実証されました。 しかし、ネオコンが予想したように、首都を占拠しても戦争は終らず、いまなお、アメリカ軍は苦戦しています。 また、フセインはアメリカの宇宙からの監視能力を充分に知って、何と、文字通り地下に潜ってしまいました。 一国の指導者が穴を掘って隠れるなんて、世も末ですよ。 この苦戦によって、ブッシュ大統領の人気もがた落ちしました。今や、アメリカ軍の指導者も、ネオコンの 主張が正しいことを充分に知ったでしょう。 ところで、あなた方は、冷戦下のアメリカとソ連に、何故核兵器があれほど戦争抑止力を持っていたと思います? アメリカとソ連の国民が大量に死ぬからですか? そう考えていたとすれば、国の指導者達を見誤っていますよ。指導者達は、国民がどれほど死のうと、何とも 思っていません。そうでなければ、もともと戦争なんて出来ないじゃないですか。 国民だって、国民が大量に死ぬから戦争なんてやってはいけないなんて思っていませんよ。国のためであれば、 全員が死ぬのも厭わないんです。そんな国があるかですって、冗談言っちゃいけません。 僅か60年前の日本を思い出してくださいよ。あの当時、一億総玉砕なんて言っていませんでしたか? 当時、国民の大多数はそれが正しいと信じていたんです。女性ですら、竹やり訓練を真面目にやっていたんじゃ ないですか? 国民とはそういうものです。 じゃあ、冷戦下のソ連とアメリカに、何故核兵器が戦争抑止力を持っていたか。それはね、核兵器が広範囲に破壊し、 その範囲内にいる総ての人間を殺戮する能力を持っているからですよ。 アメリカ大統領からすれば、大統領はワシントンの何処かに概ね何時もいますね、ワシントンに水爆が落ちたら、 ワシントン郊外も含めて誰も生き残れません。大統領がワシントンのどこにいても、同様です。ソ連の書記長に とっても事情は同様でした。 つまり、アメリカの大統領とソ連の書記長の二人が確実に死ぬ事になるから、核兵器は絶対的な戦争抑止力を 持っていたんですよ。二人だけです。二人だけの命を守る為に、決して核戦争は起きなかったんです。 つまりね、最高指導者、あるいは最高権力者一人を確実に殺せる手段があれば、核兵器と同じような威力が あるということですよ。 反面、攻撃する側の指導者が殺されないのであれば、その国は自由に他国を攻撃できるのです。攻撃するのです。 ピンポイント攻撃はどうですか? アメリカ以外にいかなる国もその手段を持っていません。だとすれば、アメリカは自由に他国を攻撃できると いう事になりませんか。 エツ、現在核兵器を持っている国はどうか、ですって? その国の最高指導者をピンポイント攻撃でアメリカが殺したとしますね、その国の後継者は、アメリカを 核攻撃できますか、核攻撃したら、その後継者はアメリカの核攻撃で殺されませんか? そうです。現在核を持っている国であっても、反撃できないのですよ。 ね、しかし不思議でしょう。どうして、アメリカだけがピンポイント攻撃をできるのでしょうね、不思議に 思いませんか? それはね、トマホークを頂点とする誘導ミサイルと、宇宙の監視衛星と、インターネットを同時に 所有しているのはアメリカだけだからです。 乗用車のナビゲーターの正確さにビックリしませんか? アレはアメリカの監視衛星を使っているのです。しかも商業用に正確さを大幅に減少させているんです。 それでもあんなに正確ですよ。 監視衛星は地上の十円玉さえ見つけることができます。 だからこそ、パレスチナの指導者をリアルタイムでその行動を把握することができて、その情報の提供が あればこそ、イスラエルが、パレスチナの指導者をミサイル攻撃できたんです。 インターネットも不思議ですね。 世界各国で利用していますが、アメリカの軍人以外は、その基本的なノウハウは誰も知らないのですから。 アメリカは、その基本情報を軍事機密として決して明らかにしようとはしません。 それは、アメリカの力の源泉だからですよ。 このような軍事力が、ドルを世界の基軸通貨たらしめているのです。この軍事力がある限り、アメリカは 自由にドルを刷り、ドルを売り、潤沢に予算を使えるのです。国民が幸福に暮らせるのです。 ところで、あなた方は、アメリカの北朝鮮に対する態度にびっくりしませんか?アメリカは、どうして 北朝鮮に、あんなに厳しいのでしょうね。 それはね、北朝鮮が偽ドルを作っているからです。偽ドルの存在は、ドルの信認を根底から覆す恐れが あるからです。核兵器を作ろうとしているからではありません。それは単なる表面的な理由です。 イラクが終ったら、次は北朝鮮です。 北朝鮮では、金正日その者を狙う、典型的なピンポイント攻撃型の戦争となるでしょう。 金正日の動向は監視衛星によって、リアルタイムで把握されています。金正日もそれは充分に 知っているでしょう。 金正日は、現在、自分の命を賭けてアメリカと対峙しているのです。残されている時間はあと僅かです。 私は、彼の勇気と、そのしたたかさには、本当にビックリしています。 アメリカが狙っていることは、ドル支配の確保ですが、そのためには、金正日の殺害だけでなく、 北朝鮮を民主化してドル支配下の韓国に併合させ、後顧の憂いをなくしたいのです。 これを韓国は最も恐れています。東ドイツを併合した西ドイツの苦境を知っているからです。 そこで韓国は、北朝鮮が偽ドルの印刷をしなくても済むように、アメリカが攻撃しなくて済むように、 必死になって援助しているのです。しかし、これは全く無駄なことですね。偽ドルを印刷しているのは、 経済が壊滅状態だからです。経済が壊滅状態なのは、北朝鮮の国家体制の問題なのです。国家体制を 変えなければ、いくら援助しても好転する事はありません。 韓国の北朝鮮併合は、中国にとってはどうでしょうか。これは、中国の柔らかい腹部をアメリカ軍に 曝してしまうことを意味します。 しかも、経済を市場化しなければ国民を飢えさせ、ついには偽ドルの印刷をも余儀なくされるというのは、 自らの経験でよく知っているのです。 そのため中国にとって、最も望ましい北朝鮮は、韓国に併合されないように、民主化されていない 国家体制の下での市場経済化された国の形です。 このような条件にかなうものは、ミャンマーです。ミャンマーは、軍政で、かつ完全な市場経済です。 偽ドルも印刷せず、核兵器も持っていません。このような国こそ、中国にとって北朝鮮に最も相応しい 国家形態なんです。 中国と韓国は、国家的な最大の懸案事項について、今国益が共通しています。そこで、両国は、 現在仲良く手を組んでいるのです。 一方、アメリカにとって、偽ドルの印刷が放棄され、かつ二度とそれが繰り返されないということが 目的ですので、それが最低保証されれば、軍事行動という荒療治は避けても良いのです。そこで現在の ところ、金正日の亡命とミャンマーのような国家体制の確立を条件として、アメリカは中国に、 北朝鮮の処理を任せているのです。 市場経済化のための莫大な費用はどうするかですって? そのために日本政府がODAを供与すべく、てぐすねひいて待っているんじゃありませんか。 加えて北朝鮮には、中国の10分の一の賃金と、60年間上司の命令には盲目的に従うように訓練された、 従順な国民が約2000万人もいるんですよ。しかも日本海の対岸、船で僅か3時間の所に、 日本企業にとって天国のような場所があるんです。日本企業はよだれを流しています。 先程、アメリカの攻撃は金日正殺害のピンポイント攻撃だといいました。しかし、それを成功させる 為にはもう一つの攻撃が必要です。約1000万人のソウル市民の命を守る為に、38度線の北側で ソウルを睨んでいる北朝鮮の野砲陣地を、一瞬で壊滅させる攻撃です。 その準備はもう完了しました。2ヶ月ほど前、レーダーに探知されない高性能爆撃機ステルスがグアムに 配備されました。このステルスによる野砲陣地への核攻撃です。 人類3度目、61年振りの核攻撃の瞬間が刻々と迫っています。 核攻撃を避けさせる為の中国の持ち時間は、イラクが平穏になる時までです。今世界は、中国が必死に なってやっている金正日と北朝鮮軍への説得を、固唾を呑んで見守っています。 さて、20年ほど前でしたか、日本が、ジャパン・アズ・ナンバーワンなどとおだてられている頃、 円の国際化と称して円をアジアの基軸通貨にしようという動きが日本政府にありましたね。 覚えていますか。しかし一言口に出して以降、日本政府も政治家も、その後皆一斉に口を閉ざして、 一言も言いませんね。 何故その動きがぴたっと止まったか、それはアメリカの逆鱗に触れたからです。ドルのアジアに おける信認を崩そうとしたからです。その時関係者全員が、アメリカから殺されるのではないかと思う くらい、脅されたのです。 爾来、日本はドルの信認を覆すことは決してしない、日本経済はドルとともに歩むと決心し、 余った外貨はアメリカの国債を買うことにしたんです。アメリカの国債購入はその証なんです。 イラク戦争で、日本はショー・ザ・フラッグと要求されましたね、旗幟を鮮明にしろということですが、 それはドルが基軸通貨たることを、世界第二位の経済大国として世界に宣言しろ、アメリカ軍が 世界警察軍であることを宣言しろ、と云うことでした。 小泉政権はそれに応じました。それに応じる以外に日本の将来は無いのです。小泉さんが本当に 偉いのは、本当に旗だけもって行き、旗だけ見せたことです。 戦争に行って、一人も死なないようなところに軍隊を派遣し、軍隊が学校や道路を作るだけ、 こんな出陣がありますか? 今回はアメリカは、それを良しとしたんです。 アメリカ大陸の丁度裏側には、アジア大陸があります。その両端にある、かつての大英帝国イギリスと 世界第二の経済大国日本が、アメリカ軍に従って出陣する、その形が、アメリカが世界という国の政府 であり、アメリカ軍が世界の警察軍であり、ドルが世界の基軸通貨であるということを 示すことになるからです。 ところで、私は『今回は』と言いましたね、そうです、小泉さんのお蔭で『今回は』これで済んだん ですが、次からはそうは行きませんよ。 あなた方は、韓国がベトナム戦争に大軍を送って多くの戦死者を出していることを知っていますか? イラク戦争では日本は500人なのに、韓国は3000人を超える兵隊を出し、血を流しています。 しかも、アメリカ人は、もっと多くの血を流しています。 日本は、そのパクス・アメリカーナの恩恵によって経済発展を遂げ、世界第二の経済大国といわれるように なりました。その報酬を正当に支払えといわれませんか? 金正日を殺害し、核攻撃までしたら、アメリカは一挙に北朝鮮を民主化すべく、地上軍を派遣して 北朝鮮軍の殲滅作戦を徹底的に行なうでしょう。 しかも、北朝鮮の民主化で、その恩恵を最も受けるのは、日本です。 その時は、ショー・ザ・フラッグじゃなく、ショー・ザ・ブラッドになるでしょう。」