ショートショート(完結) 投稿者:高木伸 投稿日:2013年 9月16日(月)08時17分38秒 返信・引用 編集済 (物音の正体) それから1週間は何事もなく過ぎた。 泥棒騒ぎから8日目の夜は台風が南海上に発生して本州付近に向かっているためか再び熱帯夜となった。 夜中の2時ごろ、ガリガリドスンという物音と、くだんの吠えない犬のワンという一声に起こされた。 野球のバットを持ち、急いで1階に下り物音がする方とは反対の勝手口から外に出て、音のする方に回り込み身を隠しながらそっと音のする方を見やった。 弦月の明かりは雲間に隠れ視界が効かない。 と、その時真っ暗な中に光る相手の二つの目がこちらに向けられた。 そして、雲間が切れ、月明かりに照らされた者は大きな猿であった。 私は怖ろしさにその場に立ちすくんでしまった。 やがて猿はその場を立ち去ってどこかへ消えて行った。 (捕獲作戦) 翌日朝、市に電話して事情を説明した。 その日のうちに市の職員が私の家を訪れ詳しい状況を聞いていった。 猿は今のところ夜中だけしか出没していないが、昼間に出没して人に危害を加える恐れがある。 また、付近には小学校や幼稚園もあるので早急な対策が求められる。 市の対応は早かった。 市の職員や猟友会、警察など200人で住宅街の裏山の捜索が始められた。 この町は山が多い地形なのでイノシシが住宅街まで出没したということは聞いていたが、まさか猿がいるとは初耳であった。 大捕り物が展開されて6日目の夕方、ついに猿は捕獲された。 体長60センチ、体高35センチのオス猿であった。 (終わりに) 最近は生態系が崩れ、獣と人間の住む区域が曖昧になり、全国でシカやイノシシなどが人間界に出没して畑を荒し甚大な被害が生じている。 そのような状況を創りだしたのはほかならぬ人間であるが、この世は人間を中心に回っているので、人間が悪いことにはならないのである。 獣は生きるための食べ物の確保がままならず、人間界に出没し食べ物を得る。 獣はなにも悪意を持ってしているわけではないのである。 にもかかわらず、人間界の秩序に逆らったら罰せられ場合によっては殺される運命にある。どのような情況であっても、人間に被害を与えるような行為は許されないのである。 若し動物に人間並みの知性が備わっていたら、彼らは決してそのようなことはしないであろうが、それが出来ない犬畜生の悲しさを人間は理解できないのである。