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「ミツバチと遠雷」で直木賞と本屋大賞を同時受賞した恩田陸さんの最新作です。
ーー20年前の新聞記事のコピーを手にした私。
それは私の中でずーと気になっていた記事だった。
1994年4月29日に、奥多摩の橋から飛び降りて死亡した二人の女性。
まさか、44歳と45歳という年齢だったとは夢にも思わなかった。
印象の中の二人はほとんど老境に近い女性だった。
まさか今この原稿を書いている私よりも若かったなんて。
そして、いま引っかかっているのは、記事の中のこの二人が、匿名になっていることだった。AさんとBさんという、ありきたりの記号。
匿名にする、しない、というのはどこで判断するのだろうか。または誰が判断するのだろうか。
最近ではプライバシー保護の観点から、新聞に事件関係者の名前も写真もどんどん載らなくなってきている。しかし、1994年の時点で、この二人の名前が匿名になっているのもなんとなく奇妙な心地がする。
遺族が希望したのだろうか。それとも自殺だったからだろうか。
誰が匿名の判断を下したのだろう。この記事以外何の手がかりもない。
本当に、1994年の新聞記事を見たという一点のみで私と交差した二人。
あなたたちはいったい誰だったのか。どんな名前でどんな顔をしていたのだろうかーー
上記は小説の中の一節です。
恩田さん(小説家)はこの二人の心中にあれこれと詮索していく。
二人の馴れ初め、独身か結婚歴があるのか、同居しているのか、職業はなどなど想像をたくましくしていく。
小説家の視点で書かれた文章は0。二人の行動は1。として物語は展開していく。
そして、最後の場面はごく淡々と描かれていました。
小説家は二人の道行にいたるまでの原因については何も書いていませんでした。何故だかわかりませんでした。(ただ、二人の恋愛感情だけは否定していました。理由はわかりませんが、あまりにも陳腐になるからということなんでしょうか)
珍しいスタイルの小説でした。
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