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今日の朝刊のコラムに、神戸市職員が20年前大卒であるのに高卒と偽って水道局の技能職員に就職し、20年間問題なく勤務していたが、大卒であるという匿名の通報があって高卒でないことが判明し、先月5月に懲戒免職となった旨の記事がありました。コラムは、20年前は就職難でそういうことをしたのであろう、なんとなく切ない、という内容でした。
びっくりして調べてみると、神戸市では、2006年に学歴詐称の調査を行い、当時申し出れば退職金の出る諭旨免職にするということで申し出た36人を処分し、その後に判明した場合は懲戒免職にするという宣言を行い、その結果、現在までに14件の懲戒免職をしてきたというのです。
しかも今回の例は、担当者は、20年間何らの問題を起こしていず正常な勤務をしていた、とコメントしています。すなわち、高卒としての職務に大卒の者が勤務していたという理由一点のみで、退職金も出ない懲戒免職と云う極刑に処しています。
20年間、何ら問題なく勤務し、人生を過ごしてきた人を懲戒免職にし、20年間の経歴を無にしてしまう、おそらく妻子もいらっしゃることでしょう、涙なしには読めません。
私は、国家公務員をしていましたが、国家公務員は学歴は問われません。確かに高卒クラス、短大卒クラス、大卒クラスとそれぞれ試験の区別がありますが、それぞれのクラスにいかなる学歴の人が応募しても全く構わないし、現に、現在の高卒クラスの試験に合格した人で職場にいる人の半数は大卒ではないかと思います。
それでも、職場の秩序の維持は全くかまわないのです。それどころか、私は国家公務員の大卒クラスの就職の最終判断をする面接官をしていたことがありますが、面接にあたって、面接官には学歴の情報は開示されませんし、面接時にも聞いてはいけないタブーの一つでした。
神戸市の、このような一律の判断は、おそらく悪しき学歴主義の最たるものではないでしょうか。多分、高卒クラスの試験を経てきた人には、大卒クラスの職責には決して登れないのでしょう。その反面の問題ですが、大卒の者は高卒の職位には就けないし、しかもしかも、20年が経過して何の問題もなく職責をこなしてきた人が、大卒であったことの一点のみで、突如として懲戒免職にされて人生を否定される、とても酷いと思います。
大学に進学する理由は様々です。世の中に大卒として評価されたいという人もいるでしょう、そのような評価を求めず、ただ自らの興味に応じて、4年間を過ごしその後の人生は学歴でなく、これまた人生の目的に照らし、様々な職業を選択する人も多数います。
ごく最近、美大を卒業し、造船会社の船体のさび落としなどの作業をする技能工をしている人と知り合いました。美大では、デザインを勉強したということでしたが、デザインの世界よりはこちらがいいということで転職したということでした。
知り合ったのは、偶然にその人の仕事ぶりが群を抜いているのに気づいて、どんな人だろうと特に求めて知り合ったのですが、やはり、広い知識を持っている人で、その広い知識とデザインをやってきた人の経験が、さび落としなどの技能的な仕事にも、輝きを与えているのだろうと思いました。
だからと言って、私は大学卒が優秀であるといっているのではありません。優秀なのは、その人の人生の過ごし方だと思いますし、そのように考えてほしいからです。
私の公務員時代の部下に中卒で企業に就職し、企業内の高等学校に働きながら通い、高卒の資格を取って、ついには国家公務員の上級職に合格した人がいました。とても優秀でした。しかし、彼のそのような学歴が災いしたのでしょう。彼の優秀さにかなう最終的な職位には就けませんでした。悪しき学歴主義の一つだと思います。
学歴を求めないという組織である国家公務員に、かかる悪しき慣習が厳としてあります。悲しいことですが、これも社会悪の一つでしょう。
しかし、神戸市の問題は、かかる隠れた悪しき学歴主義の発露ではなく、堂々と表面に押し出した、悪しき学歴主義の最たるものです。こんなことが公然と行われていて、しかも、今回5月に懲戒免職された人に関し、人事担当者は、この人の職務遂行には問題がなかったので、支給した20年間の給与の返還は求めない、と平然としてコメントしています。当然給与の返還を求めることができると考えているのでしょう。
神戸市は、職員の給与は職務に対して支給しているのではなく、高校クラスの公務員という地位に関して支払っているものと確信しているようです。
そういえば、神戸市では、労働組合の委員長が、違法に職を離脱して組合業務をしていたこと対して、何らの処分もしていません。
仕事していない人に対して、違法に給与を得ていても処分せず、十分に仕事していても、大卒であったという一点のみで、懲戒免職にして、しかも給与の返還を求めないことが、いかにも温情であるかのごとく発言をする、なんということでしょうか。
21世紀の、令和の時代の出来事とは、到底思えません。
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