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酒井阿闍梨の一日一生
人は自然の中で生き、生かされている
「たった一人で行に挑んだんですね」、よくそんなふうに言われる。
一人で山中を礼拝して歩くというと、黙々と孤独に行に打ち込んでいるようだけれど、寂しいとかそんなことは全然なかったんだよ。
二匹の犬をお供に連れていって犬たちと話をしてたんだ。
「おいこら、なにしてんの」なんて話しかけると、クンクンなんて返事したりして。
しばらく姿が見えないと、時々犬たちの名前を呼んでみる。
そうすると、のこのこってそばまで来てね。
「おお、そこにいたんか」なんてしゃべりながら一緒に連なって歩いていたの。
やぶの中を行くと、ガサガサガサって、犬たちとはまた違った、葉や木の枝、雑草がすれる音が聞こえてくる。
すると、イノシシだとかウサギだとか、鹿だとかが、ちょっと離れたところから警戒しながら並行して歩いていたりね。
次の日、また同じところを通って彼らの気配がないと、「昨日のあいつは何しているんだろう。どうしたのかな」なんて思ったりするわけ。
いつのまにか仲間になっちゃっている。おかしいけどな。
動物たちだけじゃない。花たちが咲き乱れ、若い緑に包まれる季節があって、雨が降りしきる梅雨がある。
雨も、最初のころはなるべく濡れないようになんて思うけれど、だんだん平気になる。
雨が降るから緑が濃くなるんだ。
やがて蒸し暑い夏が来て、また月日が流れて空気がひんやりとしてくる。
山が次第に紅葉を始める。
山を歩いていると、いつしか自然の中に溶け込んで、自然と一体になっていると感じるんですね。
人間だって自然の一部。
自然はいろいろな命が繋がり合っている。
たった一人で生きている人間なんてだれもいない。
だれもが、いろいろな命の中で生かされているんだな。
自然と離れて生活しているとそれを忘れてしまうけれど、自然の中に身を置いてみると、ああ一人ではないんだなあ、としみじみと思うよ。
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