|
平成天皇の章で、安倍総理が何かにつけて話題にする、憲法改正について触れていたので引用します。
池上
陛下が天皇に即位された年、平成元年(1989)8月4日の記者会見のときのおことばにびっくりしたことは、いまでもよく覚えています。
「憲法に定められた天皇の在り方を念頭に置き、天皇の務めを果たしていきたいと思っております」とおっしゃった。
半藤
それ、みんながびっくりした言葉だったんです。
池上
当たり前の発言なのですが、自らそうおっしゃったことのインパクトは大きかった。
半藤
しかし、当時、右翼からはものすごく評判悪かったんです。政治的発言だと言って。
ーー天皇の「憲法を守る」発言が政治的と批判される不思議な構図ーー
池上
現行憲法では天皇も憲法を守らなければならないとされています(第99条)
ですから「日本国憲法に定められた在り方にしたがって務めを果たしたい」というのは、憲法に則っての発言であって、決して政治的発言ではない。
しかし、これとて憲法を改正すべきだというひとたちにとってみれば政治的発言に、そして安倍政権批判に聞こえるようです。
不思議な構図になっています。
自民党の憲法草案の憲法擁護義務条項n天皇が入っていないことは半藤さんもご存知ですよね?
半藤
ええ、いまおっしゃった自民党の憲法改正草案ですがね。
これが公表されたのは平成24年(2012)4月です。
このとき自民党は野党でした。
わたくしはこれが出たときに、チクショウメと思いながら、丁寧に読んでメモをした。
日本会議系の「美しい日本の憲法をつくる国民の会」も独自に憲法案をつくっておりまして、同会は7項目の改正ポイントと、その主旨を公表しています。
① 前文。美しい日本の文化伝統を明記すること。
② 元首。国の代表は誰かを明記すること。
③ 9条。平和条項とともに自衛隊の規定を明記すること。
④ 環境。世界的規模の環境問題に対応する規定を明記すること。
⑤ 家族。国家・社会の基礎となる家族保護の規定を明記すること。
⑥ 緊急事態。大規模災害などに対応できる緊急事態対処の規定を明記すること。
⑦ 96条。憲法改正へ国民参加のための条件緩和を明記すること。
自民党の憲法草案は、日本会議が狙ったこの7項目をピシッと盛り込んでいるのですよ。自民党の憲法草案は、日本会議が「明記すること」と主張したことを、そのままそっくり明記した。
とくに日本会議が重視しているのが元首と9条と緊急事態。
池上
現行憲法の96条について言うなら、これまでは、衆参両院総議員の2/3以上の賛成が得られなければ、国会は憲法改正を発議できなかった。
それを過半数で憲法改正ができるようにする、と。ハードルを低くして憲法を変えやすくしようとしています。
半藤
それもまた日本会議の主張です。
ーー「公益と秩序」のためには言論の自由はない、とする自民党改正草案ーー
半藤
自民党改正草案のなかから、いちばんわかりやすい改正ポイントを見いだすことができるのが、憲法21条1項です。
現行憲法では、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」とある。
これにつづけて第2項として、自民改正草案はこういう文言を加えました。
「前項の規定にかかわらず、公益及び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社することは、認められない」
第2項を新設することによって、21条の1項をあってなきがごときものにしようとしている。
これは、ことによったら戦前の治安維持法よりもひどいかもしれません。
池上
ええ。つまり「公益と秩序」のためには言論の自由はない。ということですからね。
緊急事態に備えるためには言論封殺も必要、と考えている日本会議の主張にこれもぴったり合っている。
半藤
中華人民共和国の、憲法の51条には「中華訊問共和国公民は、その自由及び権利を行使するにあたって、国家、社会及び集団の利益並びに他の公民の適法な自由及び権利を損なってはならない」とありまして、あちらも「公益と秩序」のためには言論の自由はないと言っている。
「公益と秩序」というのは、「国家を優先して、個人はそのために働くだけ」ということなのです。
こと個人の権利や表現の自由に関して自民党は、わが国を一党独裁国家と同じにする気です。
自民党は13条も書き替えた。
現行憲法では「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」とあります。
つまり、ひとりずつがもっている個人としての基本的人権は、法律上も国の方針からも優先して尊重されなければいけない。
現行憲法におけるもっとも基本的な考え方が反映された条文であり、現行憲法の肝なんです。
ところがそれを反故にしようとしている。
問題の自民党案がこれ。
「全て国民は、人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公益及び公の秩序に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大限に尊重されなければならない」とした。
ここでもまた「公益及び公の秩序」。
国家の許す範囲でならば権利を認めてやる、という極めて高圧的な内容になっている。
池上
「公益及び公の秩序に反しない限り」「人として尊重される」・・・うーん。
人として尊重されるけれど、個人としては尊重されないと?
半藤
「個人」を「人」と一般化することによって個人より国家を優先させた。
言葉をなぞらえながら、巧妙に逆の意味合いにつくりかえているのです。
最初は。なんで「個人」を「人」と言い替えるのかといぶかしく思っていましたが、よく考えるととんでもない話だとわかりました。
池上
この改正草案は国会の憲法審査会では評判が悪くて、事実上棚上げにしているような恰好ですが。
半藤
しかし自民党のなかではしっかり生きているんですよ。
あのままの内容で。
自民党改憲草案に透けて見える国家改造というのは、わたくしに言わせりゃただの反動です。
歴史に何も学ばず歴史を無視し、ただ多数の力で押し切ろうとしているとんでもない動きだと思います。
これにかなりの国民が乗っかってしまい、いまや憲法改正の賛否が拮抗しているという。とくに若い世代が、ネットの産経新聞の影響かどうか、改正の方に傾いているというのでしょう? (引用を終わります)
|
|